聴きつつ思い浮かぶことなどを・・・       No.1〜10へ

スピッツ   花鳥風月

No.11 ◆ 2004年1月10日

 4年前、ある店の視聴機で初めてこの「花鳥風月」を聴いた。
 「どれ、近頃の若いので面白いのはおらんか」といった老人的な発想で、適当に2,3枚選んだ内の一つがこれだったが、1曲目、「流れ星」の歌い出しを聴いた時、認識が変わった。草野正宗。こんな凄い書き手がいたのかと思った。歌詞に英語を使っていない。そして歌謡曲の伝統を消化したような印象的なメロディ。それが正統派のロック・サウンドに気持ちよく乗っかっている。「こ、これはー!」という料理劇画の世界だった。「ああ、俺も何かを作らなければ・・・」という強い刺激を感じたのを、はっきりと覚えている。
 「愛のしるし」「スピカ」「旅人」「俺のすべて」と連打を喰らい、6曲目の「猫になりたい」でKOされた。「広すぎる霊園のそばの このアパートは薄曇り―」この展開は凄い。即購入。
 それ以来全アルバムを集め、どれも我が家の新しい愛聴盤となった。ちょうど自分と息子や娘達との間の世代、親子の楽しい話題を提供してくれた。そのスピッツとの、本格的な出会いがこのアルバムだった。
 ところでこれはシングルのB面集だという。「裏ベスト」とか言われているけれど、寄せ集めと言う感じではない。「表ベスト」的な質の高い曲がずらっと並ぶ。本当にやりたい曲をB面に忍ばせていたのではという気がする。もう一つ「ハチミツ」という素晴らしいアルバムがスピッツにはある。陽の「ハチミツ」、陰の「カチョフー」、いずれも駄曲無しの五つ星盤だ。  
     

ZOOT SIMS   ZOOT AT EASE

No.12 ◆ 2004年1月11日

  去年の秋からまた頻繁にジャズを聴くようになった。そうすると困ったことに歌作りがなかなか進まない。雰囲気が違い過ぎてうまく切り替えられないのかも知れない。それに時間も食う。それで近頃は少しセーブしているんだが、聴き続けるとどんどん聴きたくなる。(逆に、長く離れていると、久しぶりに聴いてもあんまり面白く感じなくなる。感覚も磨いていないと曇るんだなと思った。)
 針を買ったので、数年聴いていないLPを棚から引っぱり出す。ズート・シムズ。どんなのだったっけ。ソプラノ・サックスを吹いてたというのと、よかったという印象はある。
 聴き始めたらすぐ甦ってきた。短調でアップテンポの曲を3曲やっている。「朝日のようにさわやかに」「ローズマリーの赤ちゃん」(怖い映画のタイトル曲か)そして「アラバミー・ホーム」。その3つが3つとも哀調を帯びている。ビブラートのかかったソプラノ・サックスの音が物悲しくて、まずそこに惹かれる。そうだ。これを気にいって、もう1枚、パブロの「ソプラノ・サックス」を買ったんだ。
 ピアノはハンク・ジョーンズ。これといって特徴のない人と思っていたが、「端正」という感じで主役を引き立てる。ベースがいいねえ。別にベースをギターみたいにパラパラ弾く必要はないんだよね。ガツンという音がいい。ミルト・ヒントン。
 それから、今日あらためて思ったのは、本職のテナー。この人はよく歌うソロが持ち味だったんだなぁ。ベン・ウェブスターの甘いバラードが聴きたくなってしまった。


JANIS IAN   REVENGE

No.13 ◆ 2004年1月17日

 息子の大学入試センター試験の日なので、休日と言ってもどこか落ち着かない。作りかけの歌を作ったリ、学校の学習発表会の劇の構想を練ったりしている。
 しばらく前に中古屋で買って、サウンドはいいなと思っていたジャニス・イアンの90年代のアルバムを、対訳を見ながら聴いてみる。
 70年代のジャニス・イアンはわりと好きだった。声が好きだ。十代の頃から差別について歌ったりしている人だが、歌詞をじっくり読んだことはない。それより、いつかテレビで見た弾き語りが印象に残っている。こんな風に声だけで聴かせられる人は、シンプルなギターかピアノだけの方がいいのになと思う。
 でも,このアルバム、バックのサウンドがしっかりしている。ジャズっぽいナンバーもあるし、今で言えば、ノラ・ジョーンズを聴いたときの感じに近い。
 歌詞の方はよくわからなかったが、「誰でもみんな、ちょっとしたやさしさが必要なの」と歌う"TENDERNESS"がいい感じだ。
前に聴いたときは四つ星半くらいかなと思ったが、星半分少ないのは今日の気分かもしれない。


GONZALO RUBALCABA   SUITE 4 Y 20

No.14 ◆ 2004年1月24日

 ゴンサロ・ルバルカバ。このキューバのピアノの達人も、一頃ほど騒がれなくなった。日本盤で「ロマンティック」なんてタイトルをつけられ、ジャズ誌で大賞までとったこの作品も、大手通販サイトで在庫切れになっていた。
 でも、ヨーロッパのピアノ弾きなんかを聴いた後、久しぶりにこの人を聴くと、やはり「うまいなあ」と思う。超絶技巧の人だけど、何かやっぱり「歌」があるし、冷たくない。それにリズム感が抜群というか、ヨーロッパの人に無い圧倒的なものを感じる。そのラテン的な快適なリズムにのって、時には猛烈に暴れまくるのだが、それが決してうるさくない。気持ち良い。ヘッドホンで聴いたりすると、「行けーっ!」と思わず叫んでしまう。
 「ロマンティック」というだけあって、このアルバムでは通俗的なラテン曲も弾いていて、親しみやすい。甘口で始まって、ほどほどに掻き回して、軽やかに終わる。バラードも深い。やっぱりこの人は大物だと思う。  


GERRY MULLIGAN   NIGHT LIGHTS

No.15 ◆ 2004年2月7日

 図書館から借りてきた、ビル・クロウというベーシストの回顧録を読んでいる。あまり聞いたことのない人だと思っていたが、ジェリー・マリガンのナイト・ライツでベースを弾いているというので、LPを見ると、ほんとにそうだった。アート・ファーマーやジム・ホールが参加していたのは覚えていたが・・・。
 このアルバム、軽目のジャケットで、中身も「イージー・リスニング」と言っても通りそうな感じの演奏なんだけど、硬派のファンでもあまり悪く言う人はいない。とにかくマリガンの仕掛けた極上のナイト・ミュージックが、うっとりするほど気持ちいい。特に好きなのが「フェスティーブ・マイナー」と、ショパンの「ホ短調のプレリュード」のボサノヴァ版。
 枕元でこれを聴きながら寝たりしているんだけど、一つ失敗。前にCD−Rに入れた時に、後ろがいっぱい余っているので「マリガン・ミーツ・モンク」を入れてしまった。気持ちよく寝かかったところに、あやしげなモンクのサウンドが突然始まってしまう。曲数っていうのは、多けりゃいいっていうもんじゃないな・・・。   

PAUL WILLIAMS   BACK TO LOVE AGAIN

No.16 ◆ 2004年2月8日

 時間ができたのでLPをCDに起こそうとしたら、アンプの調子が悪い。20年も使ってきたやつだから、当たり前だが・・・。少し温めて、テスト代わりに何かかけようと棚を見たら、ふとこれが目に止まった。
 ポール・ウィリアムズ。実を言うと僕はこの人をあまり知らない。中年になるまで聴いたことがなかった。カーペンターズの歌の中では一番好きな「雨の日と月曜日は」の作者であるということと、歌はあまりうまくないらしいということは聞いていた。何年か前、出張に行った時見つけて、ジャケットなんかの感じがいいので買ったものだ。1940年生まれの人の、1996年の作品だから、56歳の時の作品ということになる。
 ところがこれが大当たりだったのよ。ジャケットが外側だけでなく中も素晴らしいし、対訳もよく、本人の詳しい解説まで入ってる。細部にわたって愛情込めた作りが嬉しい。これなら日本盤買うよ、という作りだ。
 そして、肝心の歌がいい。年季の入った優しい語り口が心にすっと入ってくる。年齢が年齢だから回想風というかノスタルジックになっているが、そこがいいのです。これを中年が聴かずして誰が聴く。「雨の日・・・」が入ってないのはちょっと残念だが、「愛は夢の中に」や「オールド・ファッションド・ラヴソング」なんかが入っているので許そう。
 アルバム全体のできに五つ星献呈。  


ELLA FITZGERALD & LOUIS ARMSTRONG
ELLA & LOUIS

No.17 ◆ 2004年2月24日

 受験で息子がいないので、まあ健闘を祈ることにして、久しぶりに大き目の音でジャズを聴く夕暮れ。でも、ピアノの音がうるさく感じる。疲れているのか。そういえば今日は学校で子どもの声が普段よりうるさく感じた。
 そんな日はこれ。エラ&ルイ。ほっとする。これだよという気になる。ついでに白熱灯をともして雰囲気を変えよう。この歌に蛍光灯は合わない。
 それにしてもうまいなぁ…。サッチモももちろんいいんだが、エラのうまさ。この人はほんとにうまい。例のシャバダバ・スキャットじゃなく、曲の美しさを慈しむようにストレートに歌う。そこにサッチモの歌やペットがからむ。オスカー・ピーターソン・トリオのバックも、でしゃばらなくて、いい。スタンダードな名曲を、絶妙な掛け合いで次々に料理していく。「テンダリー」「フォギー・デイ」「アラバマに星落ちて」と続いて「チーク・ツー・チーク」ときましたか。アメリカさんもいい歌が多いわ。負けます。
 アナログ3枚組。前半だけCDにしたままだったんだけど、後半もしなくちゃな。
 考えるほどもなく五つ星。 


内田光子(p) ジェフリー・テイト指揮 イギリス室内管弦楽団
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/第21番

No.18 ◆ 2004年2月26日

 唐突にクラシックに跳んでしまったが、アンプを代えたせいである。いろいろかけていたら、この辺りがいいことに気づいた。澄んだ弦の響きが美しい。
 クラシックはたまに聴く程度だが、それでも30代後半、かなり、はまり込んだことがある。きっかけは「アマデウス」。だからモーツァルトだ。クラシック・ミーハーだ。それでも「レコード芸術」誌買い込んで、ポピュラーとか聴かなくなってしまったからね。あれは今考えると不思議な状態だ。その後パソコンと出会ってパソコンに熱中したせいでクラシック熱は冷めてしまった。
 それでも、この20番なんかはほんとに名曲やねぇ。けちのつけようのない完成度、うっとりするほど調和した響き、ドラマチックな展開、そしてメロディの歌謡性。うちでしょっちゅうこれかけていた頃は、家族みんなこのメロディを歌っていたっけ。
 今は廉価盤で出ているらしい。値段と中身関係ないのが音盤の世界。誰でもみんなとにかく買っとけ!と言いたくなる音楽であります。
 


JONI MITCHELL  NIGHT RIDE HOME

No.19 ◆ 2004年3月27日

 ハードな年度末も峠を越え、修了式を終えた休日。仕事はまだ残っているが、荒れた庭を片付けていい気晴らしとなった。通販サイトの試聴コーナーを巡っていて、ジョニ・ミッチェルの「風のインディゴ」に行き当たる。いい感じだ。「NIGHT RIDE HOME」の延長上にあるらしいので、急に聴きたくなり聴く。
 ジョニ・ミッチェルは好きなシンガーで、何枚か持っているけど、辛口でとっつきにくいところのある人ではある。このアルバムはほどよい甘さもあり、僕の好きなジョニだ。あらためて聴き直して思ったのは、サウンドがよい。オープン・チューニング中心の、ジャラーンとした響きのジョニのアコースティック・ギターがふんだんに聴ける。でも昔のフォークという感じではなく、洗練されたベースがまろやかに全体を包み、ところどころパーカッションが渋く引き締める。他はあんまりごちゃごちゃ鳴らず、要所でデリケートなソプラノ・サックスがからむ。これがジョニの最高傑作ではないか。聴き直して印象が星半分上がる。
 特にタイトル曲と「COMIN' FROM THE COLD」が抜群だ。そう言えばこれ買ったのも、「NIGHT RIDE HOME」の渋いヴィデオ・クリップ見たのがきっかけだった
 ただ残念なのは、日本盤なのに対訳がない。歌詞も小さくて読めん。「中年の恋歌集」だとご本人は言ってるそうだが。そう言えばベースとプロデュースが12歳下の若い夫だとか。それでもって次の「風のインディゴ」は別れてからの作とか。ううむ、やりますな…。


MILT JACKSON  THE BIG3

No.20 ◆ 2004年3月28日

 3月はずっとこれを聴いていた。'75年の作品で、ミルトのヴァイブ、ギターがジョー・パス、ベースがレイ・ブラウンという編成。互いに同じビートを感じながら、ミルトを中心に語り合う。ドラムレスというのもまたいいものだ。調和し、ほどよく自己主張し、かけあい、淡々と進んで行く。名人達の会話。
 でも、このアルバム、正直言って試聴しなければ買わなかっただろうと思う。"BIG3"というタイトルはいかにもクサい。パブロにありそうな、ゆるめの凡作と思っていた。
 ところがこれがいいんだ。部屋でも、車でも合う。音の組み合わせがいいんだと思う。ミルトの音が映える。死ぬ前にもっとこの編成で録音すればよかったのに。
 「ブルー・ボッサ」、「ウェイヴ」そして「ムーン・グロウ」。心地いい。


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